「んんー」
弥勒が何巻も漫画を広げて頭を抱えている。
「どうしたの、法師さま?」
珊瑚に視線を移ししげしげと全身を見つめ、漫画と交互に見比べる。
「やはりこうして目の前に本物がいると小袖姿が可愛く見えますなぁ」
「は?」
「でも、この戦闘着の肌に張り付いた感じも捨てがたいな」
「何言ってんの」
「いえ、小袖と戦闘着どっちの珊瑚がいいかなーと思いまして。」
「何馬鹿なこと言ってんのさ」
呆れながらも、自分の服装のことまで気にかけてくれることは単純に嬉しかった。
そして弥勒がどういう格好が好みなのか、確かに気になるところでもある。
「…で、どっちなの?」
「そうですなぁ…」
真剣に漫画を見つめる弥勒。
そしてある一巻を手にした。

「どちらも捨てがたい…間をとってこれにしましょう!」
「ん?」
弥勒が開いていたページは、珊瑚とかごめが温泉に入っているシーンだった。
「衣装にはこだわりません!ありのままの珊瑚が…はう!」
そこら中に散らばっていたはずの漫画がすべて弥勒に投げつけられた。


「これは没収!見るな!」
「そんなあ…」
情けない声を出しながらゆっくりと起き上がる法師。
「ほっんとこの書物何なの!何でこんな人の…は、裸まで描いてあんの!」
「良いではないですか。そこが我々の旅を描く上で重要なのでしょう」
弥勒の顔が、ほんの僅かに曇ったが頭に血の昇った珊瑚は気づかなかった。
「そんなわけあるか!」
「そもそも所詮は絵なのだから気にするな」
「それでも嫌だ」
「きっと私のために御仏が描いてくださったのでしょう。ありがたや」
そう言い弥勒は珊瑚の手を握りそっとその漫画を取り返した。
「あ、どさくさに紛れて…」
法師はそれを袂に入れ腕を組む。

しかし、珊瑚は見てしまった。
その、裏表紙を。
そこに描かれた狒々の皮を被った男と、退治屋の衣装を身につけた少年を。
そして、法師がそれを隠すように仕舞い込んだのを。

急に黙り込んだ珊瑚の顔を、ことさら優しい顔で法師がのぞきこんだ。
「おや、もう取り返すのは諦めたのですか?」
「…」
「ではまたお前がいない時にでもじっくり眺めることにしましょう」
「…変態」
「珊瑚」
思い悩んだ表情のまま珊瑚が顔を上げる。
「お前の衣装にこだわりはないが…お前は、笑っている顔の方がいい」
「え…」
「ま、泣き顔もそそられますがね」
「…このバカ法師」
珊瑚は小さくだが笑った。

どこかのお姫様みたいに綺麗な格好は似合わないし、
かごめちゃんみたいに丈の短い着物も着られないけど、
私は笑っていよう。
それが、法師さまの好みだから

穏やかに微笑む珊瑚に笑いかけ、弥勒は珊瑚に散らかされた漫画たちを片づけ始める。
そして、袂に入れた先ほどの一巻をそっとその中に紛れさせた。
今度見つけるときはとびきりの笑顔を見せてくれよ、と願いを込めながら。





あとがき
あまりの短さにアップ直前に後半を継ぎ足したため
前半と後半で雰囲気違いすぎてもうホントすいません。
11巻と言えば、どちらかと言うと弥勒さまパートですよね。
今度弥勒verも書いてみたいと思います


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