「おおお!」
ここ最近、かごめが国で売っていたという『漫画』を持ってきてから、楓の庵に帰るたびにそれに読みふける弥勒の声が絶えない。
「今度は何?」
それにいちいち反応するのも珊瑚だけとなった。
というのも弥勒が見ているページを覗くと十中八九珊瑚がいるので、他の仲間は呆れて反応するのを止めたからである。

「こういう訳であんな夢を…」
ふむふむとひとり頷く弥勒。
「どうしたっていうのさ」
「これ覚えてますか?」
といって弥勒は漫画のあるページを見せる。
「ああ、これ…煉骨の寺から犬夜叉に助けられたときだ。」
「ええ。冥加さまに霧骨の毒を抜いてもらっているところです。」
「あんまり覚えてないんだけどね」
「瀕死状態でしばらく意識もありませんでしたから」
珊瑚は続きに目を移し弥勒の科白を読み上げる。
「ん?…『そうか産んでくれるか』…ってあんたこんな時にどういう夢見てんの!」
「そこなんです。私も何でこんな時にと思ったらね、ほら」
弥勒はページをめくり「ほら」と言いながら何枚かのコマを見せる。
「ほら…って何。意識のないあたしたちが雲母に運ばれてるけど。」
「私の上。お前が覆いかぶさるように乗ってるでしょう」
「それが」
「もうそれは思いっきり胸とか当たってますよね」
「…で」
「さらに雲母の上ですので揺れる」
「…」
「そりゃあ現実がこんな状態じゃ、後ろから女に迫られてる夢を見るのは当然ですよね」
「…この変態!!!」
弥勒は殴りかかろうとする珊瑚の腕をとり、引き寄せて耳元で囁いた。
「私は予知夢を見たんです。お前が私の子を産んでくれるとそう言ってくれた。私はそれが単なる夢だと分かった時本当にがっかりしたんですから。」
「女ってあたし…?」
「ああ。現実になってよかった。」

―法師さまあたしの夢を…

「…嬉しい」
珍しく素直な様子の珊瑚におやと思うも、せっかくなのでつっこむことはない。
「しかし、私にだけ意識が戻っていれば、お前の体の感触を楽しむことができたのにな」
やっぱりただの変態かと睨みつけると、自分を見つめるそのまなざしがあまりに優しかったので、毒を抜かれた気分になった。
「珊瑚」
そっと抱き寄せられる。
「法師さま、あの」
「ん?」
「えと、あのね」
「うん」
「…この頃から、その…あたしが法師さまの子どもを産むことを望んでたの…?」
なんだか気恥しく顔があげられない珊瑚は彼の胸元に頬を押しあてたまま尋ねる。
「ああ、当然でしょう?」
「当然って…全然知らなかった」
拗ねたように小さく口を尖らせているのが可愛い。
「隠してましたからね。」
「…そうなの?」
「ええ。ずっと」
「…いつから、そんな風に思ってくれていたの?」
おずおずと珊瑚は弥勒を見上げた。
「さぁ…いつからだったか。気づいたら、すでに。」
「いつ、気づいたの?」
「…何ですか、珍しく食い下がってきますね」
「だ、だって…」
再び、顔をそむけてしまった珊瑚に苦笑しながらも穏やかな目線を向ける。
「かなり前ですよ。もしかしたら、最初からかもしれませんねぇ」
「え…」

「お前は?」
弥勒は珊瑚の耳元に唇を寄せ、甘く低い声で呟いた。
珊瑚はビクッとして、頬を真っ赤に染めている。
「知らない!」
「おや、私にだけ聞いといてお前は教えてくれないんですか?」
「…覚えてないっ」
「では、覚えていないほど昔からということで。」
「ちょっと!」
もうっと怒った顔を向けて来る珊瑚に笑いが止まらない。
ますますむくれる珊瑚だが、そんなに頬を赤らめていては弥勒の目にはただただ可愛くしか映らない。
「本当にお前は可愛い」
そう言って、弥勒が珊瑚の熟れた頬をパチンと挟む。
「ばかっ」
そんな弥勒の行動に、己がどんな顔をしているのかようやく思い当たった珊瑚は、弥勒の手をすり抜け、
見られないように思いっきり袈裟に顔をうずめた。
弥勒もその肢体を抱きしめる。
だが。

「後ろからというのもいいが、やはり正面から堪能するに限りますね」
という余計なひと言に、今度は弥勒の頬が真っ赤に染まるのであった。
もちろん、珊瑚の渾身の平手打ちによって。

子を産んでもらいたいと、夢にまで望んだ娘が、思いに応えてくれた。
早く二人の夢を現実にしたいものだと、弥勒は数珠に縛られた右手を強く握った。





あとがき
11巻に続き、また超短編に継ぎ足したためちぐはぐな内容に…
いや、でもしかし
あんな体勢のとき見る女の夢って珊瑚ちゃんでしかあり得ないですよね!
あの当時にはすでに珊瑚ちゃんしか見えてなかったはずだ!


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