弥勒からの告白を受け数日が経った。
しかし、珊瑚は悩んでいた。
あれは本当に求婚だったのだろうか、と。


make sure



弥勒にとって自分はいったい何なのだろう
嫌われてはいない。
自分で言うのは何だが、好かれている方だとは思う。
「でも…」
だったら、この仕打ちは何だろう。
確かに浮気はしないでという懇願にはっきり応と答えてはくれなかった。
かといって、告白からたった数日で、もうこんな状況になろうとは…
「許さん」
珊瑚はいそいそと片方の草鞋を脱いだ。
そして、数人の娘と楽しそうに談笑をしている弥勒めがけて思いっきり投げつけた。

スッパーーーン

それはもう気持ち良いほどの音を立てて彼の後頭部に命中した。

「った〜。ん?」
弥勒は今勢い良く何かがぶつかってきた頭を押さえて振りかえった。
向こうから、これまたすごい勢いで珊瑚がやってくる。
片足飛びとは思えない素晴らしいスピードである。
弥勒を囲んでいた娘たちは、珊瑚の恐ろしい形相を見るや否や逃げ出してしまった。

弥勒は、寂しく転がっている彼女の草鞋を拾い上げると、徐に立ち上がった。
「おや、どうしたんですか?」
珊瑚は、弥勒の目の前でふらつきもせずぴたりと止まる。
「さすがですね」
「ちょっと返して」
「何をですか」
珊瑚はむっとして草鞋を取り返そうと手を伸ばす。
しかし一方弥勒は、
「あぁ、さっきまで珊瑚のおみ足が…まだ温かい」
などと言いながら、草鞋に頬ずりをしだしたのである。

ぶちぶちぶち

「やめんかーーい!」
弥勒は楽しそうに珊瑚を見下ろすと、草鞋を持つ右手を遠く高くに掲げる始末である。
珊瑚はますます眉根をあげ、草鞋めがけて弥勒に飛びついた。
本人は気づいていないが、それはもう思いっきり抱きついている。
飛びついた勢いで弥勒は少しよろめいたが、彼女は全くお構いなしで、彼の肩に手をかけ必死に手を伸ばしている。
見れば、取り返すのに必死になりすぎて裸足の方の足が地面に着きそうになっている。それでは、本末転倒である。
「やれやれ」
弥勒はわざとらしくため息をつくと掲げていた右手を下ろしそのまま珊瑚のひざの裏に持って行って、ひょいっと抱き上げた。
いわゆるお姫様だっこである。
「ちょっと…何すんのさ!下ろしてよ!」
「いいではないですか」
「よくない!」
弥勒は再びため息をつくとそのまま悠然と歩きだした。


「どこ行くの?」
珊瑚が腕の中で怪訝そうに聞く。
「少し話でもしませんか」
すぐ近くの土手にたどり着くと、弥勒は腰を下ろし珊瑚を膝に乗せた。
「って、何で膝に座らせる!?」
「はい珊瑚。履かせてあげますから足貸して。」
「きゃあ!」
弥勒は言い終わる前に珊瑚の足を持ち上げた。
抵抗したいが、彼の膝の上で足を掴まれていては、何とも不安定である。
暴れればバランスを崩し、矜持も崩れ去ってしまう気がする。
珊瑚はぐっとこらえた。

「はい。出来ました」
「法師さまって真の変態だよね」
「心外ですな。優しさと言ってください。」
「さっきだって、草鞋をあんな…第一、汚いだろ。」
「珊瑚のものは例え草鞋であろうと美しいんです。」
「本当、口八丁手八丁呆れるわ…」
はぁとため息をつく珊瑚の頬はそれでも少々赤い。
そのまま膝から降りようとする珊瑚を法師が制した。
「何で。重いし痛いでしょ?」
と、珊瑚は気遣ったつもりなのだが。
「気になさらず。お前の尻の感触を…ぐはっ」
珊瑚は彼の腹に一発決めると飛びのいた。
「お前…やり過ぎだ…」
「やり過ぎなのはどっちさ」
うーと呻いている弥勒を見つめ、やがて珊瑚は口を開いた。
「あの…聞きたいことがあるんだけど。」
このタイミングはどうかと思うが、逆に真面目な雰囲気では緊張して聞けない気がする。

「あの…あのね…」
「何ですか」
なのにいざ聞こうとすると頬が勝手に熱くなる。
「こないだの、あれなんだけど…」
「あれ?」
「山椒魚の妖を退治した後に言ってくれた…」
「ああ」
「あれは…婚いだったの?」

「…は?」
きょとんとする弥勒にうまく伝わらなかったのかと、焦ってまくしたてるように補足する。
「だって、子供を産んでくれって言うのは誰にでも言ってるし、共に生きようっていうのは、仲間でいてくれってことかもしれないし…あの…実際どういう意味なの?」
「あのね…」
弥勒は、珊瑚が勇気を出して聞いたのであろう言葉に、脱力するほかなかった。
そこまで伝わっていなかったとは―
「あれは約束だ」
「約束?なんの?」
「確かに、おなごとして好きになるまいとは言ったが、あんなの建前だ。恋心など抑えられるものではないだろう?」
一番分かっているのはお前ではないのかと問われているようで珊瑚はうっと詰まる。
「お前と恋仲になったと思っていたから、遠慮なく戯れていたのだが。」
「そ、そうなの?」
今までも遠慮なんてされた覚えはないとか言う突っ込みはこの際置いておく。
「お前こそ、俺を許嫁だと思っているから、膝の上で素足触られても大人しくしてたんじゃねぇのか?」
恋仲やら許嫁やらぽんぽん出てくるときめく単語に胸がざわついてしょうがない。
それに、何故か弥勒は素が出ている。
決して良いとは言えないこの不良な面にもどうしようもなく惹かれる自分がいる。

「怒ってるんだが。」
「なんで!?」
「お前が俺をまったく信用してないからだ」
ふっと背中に暖かいものを感じた。
彼の手が添えられたようである。
「え…」
徐々に彼の顔が近づいてくる。
珊瑚の心臓がバクバクと音を立てている。
(何!?どうしよう??どうしたらいいの!?)
そのあまりの顔の近さに珊瑚は呼吸することすらできず、ついには涙がこぼれた。
「って!珊瑚!?何で泣く!?」
弥勒があっけにとられているうちに、珊瑚はすごい勢いで飛びのきあっという間に逃げて行ってしまった。

間もなく珊瑚が消えた方向からどどどどと音が聞こえてきた。
「弥勒さま!」
弥勒が振り向くと、土手の天辺にかごめが立っていた。
何故か弓を構えて。
「かごめ様?」
少し遅れてかごめの足元に登場した七宝がわめく。
「度々の浮気も寛容に許してきた珊瑚を泣かせるとは…何をしたんじゃ弥勒!」
「寛容に許された記憶はないのですが…」
すぅっとかごめの目元に険呑さが増す。
「言語道断問答無用!!!」
言霊とともに破魔矢が放たれた。



「惜しかったわ、もう少しで邪気退散だったのに…」
一行がゆったり過ごす小屋で、悔しそうなかごめがポツリ。
「本気で殺す気だったんですか?」
「確かに弥勒は邪だけどな。」
はぁ…とため息をつく弥勒の隣で、破れた(犠牲になった)袈裟を繕う珊瑚が微笑む。
しかし、かごめが核心を突く一言を。
「で、結局弥勒さまは珊瑚ちゃんに何したの?」
「かごめ様…何をしたかも聞かずに、矢を放ったのですか?」
一方ぎくっとなった珊瑚が針を指に刺し、あたふたとしている。
騒然となったその場に似つかわず、弥勒がいとも自然な動作で彼女の指を口に含んだ。
そのまま見つめあう珊瑚の瞳に涙が滲んだのを見て、先ほど土手で何が起こったのか大体察知した仲間たちであった。


晴れて二人が婚約し、ようやく落ち着いたと思っていたのに。
「また別の意味でハラハラしそうね…」
と呟くかごめの声にはどこか楽しそうな雰囲気が隠し切れていなかった。





あとがき
もう本当にすいません。土下座です。
変態法師さまになってしまいました。
最後に出てきたかごめちゃんのキャラが異常です。
タイトルのセンスのなさ…「本当にプロポーズだったの?」という確認。
お粗末さまでしたorz

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