あなたにちゃんとりたい
だけど自分に自信ないリクションは想像つくから
するフォーチュンクッキー!未来はそんな悪くないよ
Hey! Hey! Hey!ツキを呼ぶには笑顔を見せること



恋するフォーチュンクッキー (前篇)



 不思議な形をしたそれは、仄かに甘い香りを放ち、人々に笑顔をもたらしました。



「…おみくじせんべい?」
「そ。うちの神社で新しく売り出したんだけど、全然売れなくて。手作りで賞味期限すぐ来ちゃうから、みんなで食べようと思って」
そう言ってかごめは持っていた箱をひっくり返して中身をぶちまけた。
「これはまた、大量ですな。」
「おら、こんなに食えんぞ」
「じいちゃんったら張り切ってたくさん作っちゃって。あとで村のみんなに配ろうと思うの。」
ああなるほど、と一行が頷いた。

先ほどかごめが何やら大きな包みを抱えて現代から戻ってきたわけだが、すぐには出発せず、案の定一行は楓の庵でくつろいでいる。
どうやらその包みを片付けてしまいたいらしい。
そしてその中身がこの『おみくじせんべい』である。
「それよりこれ、普通のおせんべいじゃないの。食べてみて」
かごめがにこにこと皆にせんべいを勧める、が。
「確かに、変わった形をしておる」
「まるでおなごの尻のような…」
「弥勒様…」
思ったことをそのまま言った弥勒は、女性陣から冷たい視線を送られ、七宝にも盛大にため息をつかれた。
犬夜叉に関しては先ほどから興味なさげに、皆に背を向けごろんと寝転がっている。
「食べにくくなったじゃないか!」
「そうですか?うまそうですがね?」
そう言って弥勒は、徐に珊瑚の尻に手を伸ばした。
すぐに派手な音が響き、「うまそうだったもので…」などと悪びれず続けた法師はそのまま地に沈んだ。

「かごめ!紙が入っとるぞ!」
そんな阿呆な様子を尻目にせんべいを頬張っていた七宝が声を上げた。
「何か書いてあるぞ…」
「ふふ、読んでみて七宝ちゃん」
「う〜ん」
「どれ」
悪戦苦闘している七宝の手元を弥勒が覗き込む。
「なるほど。『おみくじせんべい』とは本当におみくじの入ったせんべいだったわけですね」
「そうなの。面白いでしょ?」
「おら、字は読めん!」
七宝が拗ねたように投げ出した紙を弥勒が拾い読み上げる。
「おお七宝、大吉ですよ。すごいじゃないですか。」
「…そうか?」
「『万事好転の兆しあり。思ふまま進みてよし。』だそうです。よかったですね。」
弥勒の言葉に七宝は機嫌を直したようだ。
満足そうに頷き、続きに耳を傾ける。

「ね、犬夜叉も。そんなところでねっころがってないで、どれか選んでよ」
「あー?おみくじなんて興味ねぇよ」
「しっかり聞いてるじゃない」
「聞こえるんだよ!」
耳をひくひくさせて起き上がった犬夜叉ににっこりとかごめはせんべいを差し出した。

意地になって拒み続ける犬夜叉とかごめの口論に苦笑をしながら珊瑚も手に取ったせんべいを割ってみた。
出てきた紙を開いてみる。
「何が書いてあるのじゃ?」
いつの間にか珊瑚のそばにやってきていた七宝は興味津々といった様子だ。
「んー…」
と声を上げる珊瑚は困ったような表情をしていた。
文字は全く読めないわけではないが、難解な漢字なども織り込まれており、肝心の内容が理解できない。
「ねぇ、法師様。あたしのも読ん…」
言いかけて弥勒の座っているほうを振り返る珊瑚だが、たちまち無言になった。
「…」
「…おらんな」
七宝は呆れた声で少し隙間の空いた戸から視線を戻す。
「しかも、”おみくじせんべい”を持って行ったようじゃ」
そこにあったはずのかごめがぶちまけた大量のせんべいは跡形もなく消えていた。
「みゅ〜」
唖然として固まってしまった主の膝に前脚を乗せ気遣わしげに雲母が鳴いた。


「…つまり、近いうちに立派なご子息を授かり、とても良い母親になられるということです。」
「まぁ、まずは相手を探すところからだっていうのに」
「相手なら、目の前にいるでしょう?」
にっこりと、一人の娘の両手を握りすらすらと口説き文句を並べる法師のまわりで、きゃあっと黄色い歓声が沸く。
その娘たちの誰もが”おみくじせんべい”を持ち、その内容を解説してもらおうと順番を待っていた。
手相見以外に娘たちの興味を惹きつける道具を手に入れた弥勒はここぞとばかりに、村娘を集め口説き倒している。
(…何あれ)
弥勒を探しに来た珊瑚は、愕然と立ち尽くしてしまった。
いや、確かに予想していた事態ではあるが、想像以上に盛り上がる会場と、実際鼻の下の伸びきった法師の顔を見てしまった珊瑚のダメージは微々たるものでは納まらなかった。
ぎゅっと握りしめる珊瑚の掌の中で先ほどのおみくじがくしゃくしゃになってしまっている。

(やっぱりあたしなんかじゃダメだよ、かごめちゃん…)


…―

押し黙っている珊瑚の様子に気づいたかごめが、不思議そうに首を傾げた。
すぐに弥勒の不在に気付き、呆れたような溜息を一つ。
そして珊瑚に優しく声をかけた。
「ね、珊瑚ちゃんのには何て書いてあった?」
かごめの声に我に返った珊瑚は手元のおみくじに目線を落とす。
小さな声でそれが読めないことを告げると、かごめがにじり寄りおみくじを覗き込んできた。
「…小吉、か。えーと恋愛運は…」
「え、れん…?」
「…『其の人が最上。迷うな。』だって。」
「!」
わずかに心拍数が上がる。
かごめの白い歯がまぶしかった。
…が、この状況。信じられるはずもない。
すぐに表情を曇らせた珊瑚に、かごめがそっと囁いた。
「あのね、おみくじせんべいって、外国では『フォーチュンクッキー』って言うんだって。」
そこでいったん言葉を区切ったかごめは自慢げな様子で続ける。
「『フォーチュン』って言うのは『幸福』って意味なの。きっとこれが幸せを運んできてくれるから大丈夫。自信持って。」
そう言ってかごめは珊瑚の手を包み、おみくじを握らせた。

…―


せっかくかごめに勇気をもらったが、占い会場を前に、膨れ上がっていた気持ちは忽ち萎んでいく。
『続きは、弥勒様に読んでもらおう?』
そう言ってかごめは珊瑚を送り出してくれた。
(やっぱり、あたしなんかじゃダメだよかごめちゃん…)
そこでどっと笑いが起こる。
思わず顔をあげた珊瑚の目に映るのは華やかな娘たちの微笑み。
そこだけ世界が切り取られたかのように、明るくまぶしい。
比べてぽつんと一人たたずむ自分はあまりにも地味で暗い。
その差を突き付けられたような気分になり、居たたまれなくなった。
涙がにじむ。
(やだ…こんなことで情けない)
泣くもんかと必死に歯を食いしばり、集団に―法師に背を向けた。
あの人は優しい。
おみくじを『読んで』と頼んだら、『読んで』くれるだろう。
ただ、それだけだ。
そんなことをして、何になるだろう。
わざわざ、楽しんでいる場を壊す気にはなれず、かといって、何もせぬまま、送り出してくれたかごめのもとに戻る気にもなれず、珊瑚は人気のない森のほうへ足を向けた。


(後篇)




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